毎日Netflix

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主にNetflixで観た映画の紹介、劇場で観た映画も。

Netflixオリジナル映画『アイリッシュマン』を観た。ロバートデニーロ、ジョーペシ、アルパチーノの豪華共演。期待を裏切らない傑作。ジミーホッファを巡るミステリーの一説を儚く、切ないギャング映画に仕上げたスコセッシ。史実を知ってから観るべき作品。

アイリッシュマン

 史実を元にした物語、史実を背景にした物語というのは史実を知っている状態で観た方が絶対面白いので下調べをしましょう。ということで今回の記事は軽く史実を含んだ物になるのでどうしてもネタバレは嫌!という人はまずは一周目を観てから読んでくれたら幸いです。
 史実を知らずに観るとどうしても知ってから観たい欲求が出てくると思うので、ただでさえ長いこの映画を二度観るよりはしっかり予習をしてから観た方が絶対良いです。二度目の鑑賞も良い物ですけど。
 寧ろ史実を知らずに観るのはかなり無謀な行為かと思います。
 例えば『この世界の片隅に』という映画。
 
 第二次世界大戦という背景があっての日常を描いた映画ですが、史実を知っていると広島に爆弾が落ちる日に向けて日常が向かっていくスリルを感じられるわけです。そしてそれは作者の意図した構成であり、知っている前提で描いた物なわけでしっかり受け止める為にも事前知識は必要だということ。
 この『アイリッシュマン』でも、史実を知っていれば、ある大きな出来事へ向けて進んでいく切なさを感じることができます。
 その史実はあくまでフランクシーランが1999年に行った告白で明らかにされたものであるが、これが本当のことなのかはわからない。しかしこれが元でアメリカに存在していたミステリーの結末が一応明らかにされたわけです。
 それをチャールズブラントが本にした『I Heard You Paint Houses』
 これを原作としてこの映画は作られました。
 史実を知らずに観ると複雑に思えるであろうこの映画『アイリッシュマン』は、史実を知っている状態で観ると結構シンプルなお話なような気もします。
 フランクシーランという人が死ぬ前に行った告白とはどういうものだったのか、これをまず知っておいた方が面白いのですが、この映画内冒頭での彼の告白ではそこは伏せてあります。
 これはその告白とともに物語が進む回想を伴った展開において、その真実が明らかになる場面を映画的に魅せるために伏せてあるのではないかと思われます。
 ジミーホッファという人を巡るミステリーというのが向こうにはあって、その真実が明らかにされた時話題になったらしく、みんな知っている状態なのは理解している上でのこの演出。
 おそらく、ここは隠してあるけどもうみんな知っているよね、わざわざ言うのもなんか粋じゃないよね、的なアレなのではないかと推測する。

タクシードライバー」「レイジング・ブル」など数々の名作を生み出してきた巨匠マーティン・スコセッシロバート・デ・ニーロが、「カジノ」以来22年ぶり9度目のタッグを組み、第2次世界大戦後のアメリカ裏社会を生きた無法者たちの人生を、ひとりの殺し屋の目を通して描いた一作。伝説的マフィアのラッセル・バッファリーノに仕えた実在の殺し屋で、1975年に失踪した全米トラック運転組合委員長ジミー・ホッファをはじめ、多くの殺人事件に関与したとされるフランク・“アイリッシュマン”・シーランをデ・ニーロが演じるほか、ジミー・ホッファ役のアル・パチーノラッセル・バッファリーノ役のジョー・ペシと、ハリウッドのレジェンド級俳優が豪華共演する。脚本は「シンドラーのリスト」「ギャング・オブ・ニューヨーク」のスティーブン・ザイリアン。(以上、映画.comより)

↓予告はこちら

92点

 ロバートデニーロ、ジョーペシ、そしてアルパチーノが共演する映画をスコセッシが撮り、脚本はシンドラーのリスト、ギャングオブニューヨークのスティーブンザイリアン。
 もう観ない手は無いくらいの布陣。
 このビッグスリーとスコセッシが対談している確か27分くらいの映像もNetflixには入っていて、映画を観た後はこちらも観るべしといったくらい面白いものになっております。
 もうずっと聞いていたいくらいの面白さ。その中でスコセッシが「多様な見方をする時代」みたいなことを言っていて、三時間半の映画を一度で観る必要は無いと自分も思っております。
 それでもこの『アイリッシュマン』はあまり長さを感じない面白さがあり、個人的には一気見全然出来てしまうといった感想。
 実際には三回に分けて観たんですけどね、なんせ六勤中で疲労が半端なかったのと観たい欲求が重なり、寝る前に一時間と決めて観ました。
 
 まずこの映画の特徴としまして、ギャング映画、マフィア映画の主人公といえば生き方の格好良さが少なからず描かれていたりするものですが、このアイリッシュマンの主人公であるロバートデニーロ演じるフランクシーランという男の生き方は決して格好の良いものでは無いということ。
 この男、使いっ走りの殺し屋。最後の最後まで続く下っ端感。なんとなくマフィアと繋がり、上からの指令に従順に従い続ける姿勢。仕事は仕事として全く道を外さない。悪く言うと『犬』
 そんな犬に訪れる結末の切なさを描いている映画でもあります。
 元々ただのトラック運転手が起こすある意味仁義なき行為につい「いや…おまえさぁ…」と呆れてしまう。
 その行為こそが1999年に告白したことなのだが、その行為に及ぶことを知った状態で観ることにより、その行為で起こる結末の切なさが増幅していくのだ。
 裏社会に生きる者たちだからこそ徐々に人が死んでいくが、フランクシーランは運良く生き続ける。
 組織の犬として従順に仕事をこなしてきたフランクシーラン。もうただの老人と化した彼の周りには何が残っているのか…

 フランクシーランの生涯とともに描かれるのがアルパチーノ演じるジミーホッファという男の生き方。
 この男は逆に格好良い生き方。トラック運転手の労働組合の長として会社と戦う英雄。労働組合といえば横の繋がり、みんな一緒の立ち位置で会社に不満が出ると一斉にスト決行。
 会社としてはこんな面倒臭いものは無い。裏社会の者を送り込んで脅すも決して屈しないジミーホッファ。
 そんなジミーに裏社会の者が逆に惚れて寄っていくという。
 労働組合の年金制度で預かったお金をマフィアへ融資し、その見返りを受け取るというシステムが出来上がるわけだ。
 こんなすぐストをしちゃうような大きな権力をのさばらせていたらアメリカの経済に大打撃を与えかねないと行動したのが司法長官となったロバートケネディ
 ジミーホッファをどうにか逮捕しようとロバートケネディvsジミーホッファの戦いも始まる。
 アルパチーノ演じるジミーホッファのなんとも憎めない頑固な姿勢には笑ってしまう。

 良いキャラクターが出来ると自然に話が展開していくとスコセッシが言っていたがそれは本当で、自分も昔小説を書いていた時期がありまして、良いキャラクターが出来ると本当にそのキャラクターの次の行動や台詞がどんどん湧いて出てくるんです。
 それがこのアルパチーノ、ロバートデニーロ、ジョーペシというもうギャングを演じさせたらズボッとハマるキャラクターですよ。そらどんどん湧いて出てくるであろう。

 そんなジミーホッファのボディガードとなるのが主人公のフランクシーラン。ロバートデニーロとアルパチーノが並んでいる光景には胸がときめきます。
 家族ぐるみで付き合う中、父にさえあまり懐いているように見えないフランクシーランの娘にも懐かれるジミー。
 このフランクの娘がまた良い味を出していて、ずっと父への不信感を漂わせているキャラクター。
 この時点でもうフランクシーランの儚い人生が現れてきている。 
 ジミーホッファとの絆が強くなり、お互い信用し合うほどの仲に。
 頑固なジミーは己の思うままに生きる。そんなジミーをマフィアが扱いきれなくなってきてしまい、フランクシーランに指令を出す。

 フランクシーランが1999年に行った告白とは、ジョーイギャロとジミーホッファの殺害。
 ジョーイギャロの殺害シーンも映画の中に出てきますが、メインはやはりジミーホッファの殺害でしょう。
 仲良くなっていく展開をこの史実を知っている状態で観ていると哀しさが増幅されていきます。
 フランクシーランはなんとなくマフィアと繋がり、上からの指令をただただ冷静に仕事と割り切りこなしていく。
 そんなフランクシーランはジミーホッファの殺害も仕事だからとこなしてしまうわけです。
 「いや…おまえさぁ…」ですよまったく。
 最後の最後まで上からの指令通りに動き、晩年周りを見回すと誰もいない。
 なんとも切なく儚いフランクシーランの生涯。
 全然格好良くない主人公。
 これがジミーホッファが謎の失踪を遂げたミステリーの真実。

 この映画ではロバートデニーロ、アルパチーノ、ジョーペシの3人が若い頃も演じているのだが、CGで若い顔を再現したところで動きには歳を感じるという面白いことになっています。
 対談でもそこんところの話をしていて最高に面白かったです。
 しかし違和感があるという話ではなく、そういう動きの人程度な感じで寧ろ全然違和感無く観れました。
 この豪華共演というだけで観る価値有り。切なさが募る展開、アルパチーノがハマりまくっているジミーホッファのキャラクター。良いもの観れました。

 スコセッシの次作も決まっているらしい。確かレオナルドディカプリオとロバートデニーロが出るとか。こちらも楽しみですね!

アイリッシュマンの原作本です。


 

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